脱炭素という大転換をビジネスチャンスに変える。

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—LIXIL川上敏弘氏 COP22現地インタビュー —   

今回は株式会社LIXIL EHS推進部 部長の川上敏弘氏にインタビューをしました。
LIXILさんは気候変動や環境問題を積極的にビジネスチャンスととらえている企業グループのJapan-CLP(※1)のメンバー企業としてCOPに参加されています。COP22の現地で感じていること、日本企業と海外企業の気候変動の受け止め方はどう違うのか?パリ協定やアメリカ大統領選を受けてどう感じているか?ユースに期待することは何か?について質問をしました。
(日時:2016年11月16日(COP期間中)、インタビュアー:桐畑孝佑)

 
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目次
・COP22の現地での活動について
・日本企業と海外の企業との気候変動の認識の違い
・パリ協定、アメリカ大統領選を受けて
・ユースに期待すること

キーワード
ビジネスと環境、COP22、ビジネスチャンス、脱炭素、マインドセット、トランプ新大統領、パリ協定

—COP22の現地での活動について—
桐畑:今日はお忙しいなかありがとうございます。 さっそくですが、COP22に来て、現地でどんなことをしているのですか?

川上氏:私たちはJapan-CLPのメンバーとして現地に来ているのですが、 サスティナブルイノベーションフォーラム(※2)などのビジネス会合への参加、各種団体との対話、日本の環境大臣・環境省との対話などを行っています。
 各種団体との対話では、CDP(Carbon Disclosure Project (※3))やカーボントラッカー(※4)等とダイアログをして、気候変動に関する最新の動向について情報収集するとともに、日本の情報についても発信しています。サスティナブルイノベーションフォーラムでは、先進的な取り組みをしている企業や政府、都市の事例を聞いて情報収集をしています。

—日本企業と海外企業との気候変動の認識の違い—
桐畑:Japan-CLP以外から、個別で日本の民間企業もCOPに来ているのでしょうか? また、ビジネス会合に出席している国としては海外の企業の方がやはり多いのでしょうか?

川上氏:Japan-CLPからの参加者以外では、まだ、日本のビジネス界の方とはお会いしていません。 各種フォーラムでも、スピーカーも聴衆も欧米系やアフリカ系の人が多く、アジア系は少ないです。ちなみにCOP21パリ会議のときは中国企業も多かったのですが、今年は中国企業もあまり多くないように感じました。

桐畑:なるほど。確かに国際会議というと政治家や官僚だけが現地に行って粛々と会議を進めているというイメージがありますが、情報収集や情報共有のために現地に来るビジネスマンもいるのですね。
 欧米の企業が多くCOPに来ている一方で、日本の企業があまり来ていない。このギャップはどこから生じているのでしょうか?

川上氏:気候変動政策を単なるコスト、リスクと捉えるか、ビジネスチャンスと捉えるかの違いから生じているのではないでしょうか。
 これはCOP21パリ会議での話ですが、現地に来ている企業は、2℃目標や今世紀末実質排出ゼロという議論がされていることを会議が始まる前から当然知っていてCOPに来ていました。そのうえで、例えば再エネやインフラをどうしていくのかについて具体的なことを議論するわけです。日本とは見ているものが違うと感じました。世界の動きを把握したうえで、合意されると「よし、決まった!」とその合意を受けてこの大転換でどうビジネスチャンスを拡大しようかというマインドセットで来ています。こういう感覚は現地に来て初めてわかりました。
 一方で日本に居ると、「2℃目標」がどこか遠いところで決まったという感覚で、「またコストが増える、大変だ」と受け止めている企業が多いように思います。

桐畑:なるほど。非常にわかりやすいです。

川上氏:カーボントラッカーとの会合のなかで二枚の写真を見せられました。ニューヨークの5番街で1枚は馬車が走っている写真、もう一枚はT型フォードが走っている写真です。実はこの二枚の写真の間には約5年しかないというのです。馬車の産業はどうなったのでしょうか?気候変動対策に世界中が動き出しているなかで、こういうことが今、まさに起きるかもしれないのです。

桐畑:まさに生き残りをかけた勝負ということなのですね。

川上氏:ビジネス関係でここに来ている人は、地球環境も自社のビジネスも持続的にしたいという気持ちで来ていると思います。Japan-CLPも同様ですね。

—パリ協定、アメリカ大統領選を受けて—
桐畑:パリ協定、アメリカ大統領選を受けて、何か変化はありますでしょうか?

川上氏:パリ協定を受けて、SBT(Science Based Targets、科学的根拠に基づいた排出削減目標(※5))を各企業が本格的に検討や取り組みを開始しています。SBTは、「2℃目標」に合致した各社の長期的な低炭素、脱炭素戦略のことです。各社がビジョンを掲げ、そのビジョンを実現するために5年なり3年の中期目標を作成し、さらに単年の目標を作って事業に盛り込んでいくということが始まっています。LIXILでも2030年長期目標を立てて(※6)、今実行段階に移っています。
 また、アメリカの大統領選については個人的な意見として言いますが、 脱炭素が儲かるというマインドセットを作ることができれば、(トランプさんに理解させることができれば)優秀な事業家であるトランプさんはどこに投資をすれば良いのか気づくはずだと思っています。逆にトランプさんがそういうマインドセットにならないということであれば、それは気候変動がビジネスチャンスだという絵を私たちが描ききれていないということなのかもしれません。
 気候変動をビジネスチャンスにするという絵をうまく描けないということになれば、トランプさんが当選しなかったとしても、歩みにスピード感は出ないでしょう。でも、私は今起こっている変化は確実なものだと思っています。再エネなどの脱炭素経済を創ることは大きなビジネスチャンスであることにトランプさんもきっと気づくのではないかと思っています。

桐畑:パリ協定やトランプさんの当選等、各事象はもちろん重要ですが、一方で大きな流れとして世界のビジネス環境も変化しているということなのですね。

桐畑:ここまで、ビジネスと気候変動についてお伺いしてきました。最後にユース(若者)に期待することを教えてください。

川上氏:ユースは気候変動において重要なステークホルダーの一つです。日本のユースにはぜひ、自分の思っていることをどんどん発信していってほしいです。

桐畑:世界では、若者も重要なアクターとして実際に大きな役割を果たしています。私たちももっと頑張っていかなければならないと思っております。本日はお忙しいなかありがとうございました。


プロフィール
株式会社LIXIL EHS推進部 部長 川上 敏弘氏
同志社大学卒業後、株式会社INAXに入社。現職は株式会社LIXIL EHS推進部 部長として、LIXILグループ全体の環境(Environment)、労働安全衛生(Health & Safety)の本社機能を担う。


参考資料
※1. Japan-CLP http://japan-clp.jp/index.php
※2. Sustainable innovation forum http://www.cop22.org/
※3. CDP(Carbon Disclosure Project) https://www.cdp.net/ja
※4. Carbon Tracker http://www.carbontracker.org/
※5. みずほ情報総研  SBTについての解説
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/2016/1115.html
※6. LIXIL  環境マネジメントシステム https://www.lixil.com/jp/sustainability/environment/ev_management.html

日立製作所 市川芳明氏インタビュー「パリ協定後の日立製作所の戦略」

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日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 チーフアーキテクト室室長、国際標準化推進室主管技師長を務め、IEC(国際電気標準会議)TC111議長、ISO TC 268/SC1議長、ISO TC207エキスパートでもある市川芳明氏に、パリ協定後の日立製作所の戦略についてお話を伺いました。(日時:2016年4月19日、インタビュアー:岩澤宏樹)

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参考:日経ビジネスオンライン、「市川芳明 世界環境標準化競争」アクセス日2016/4/28
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20111219/225381/?rt=nocnt

目次
・市川氏の職務内容
・日立製作所の今後の戦略
・パリ協定後の産業界の取り組み
・再生可能エネルギーと原子力発電
・国際標準化の事例

キーワード
日立グループ内の分野間連携、顧客協創、Society5.0、外部資金活用と外部参加の奨励、限界費用、仮想発電所、国際標準化

―市川氏の職務内容―
岩澤:本日は、このような大変貴重な機会を与えてくださり、誠にありがとうございます。早速なのですが、市川さんの普段の業務内容をお伺いしてもよろしいでしょうか。

市川氏:現在、研究開発グループの社会イノベーション協創統括本部 チーフアーキテクト室室長を務めています。この部門は、日立グループ内の分野間連携を促進することを目的としています。各ユニットにおいて、それぞれその領域しか見られていない状況が多いため、このチーフアーキテクト室では分野間協力のオーガナイズを行っています。例えば、ヘルスケア(顧客管理)×エネルギー(省エネ)の連携が挙げられます。病院は非常に電力消費が大きいためです。日本はまだましで、海外において連携した導入を行うことで削減のポテンシャルがあります。例として、インドの病院に対し電力使用量削減を行うプロジェクトが計画中です。
 また、国際標準化に関しては、スマートシティ関連の標準化について取り組んでいます。(詳細は日経ビジネスをご覧ください。)これだけでなく、現在は国際標準化のノウハウがない他業界に対しても国際標準化策定の支援を行っています。


―日立製作所の今後の戦略―
岩澤:日立製作所の戦略をお聞きしてもよろしいでしょうか。

市川氏:現在日立製作所では、『社会イノベーション実現のために、9つの分野での技術革新を進めつつ、将来起こりうる社会課題を見据えた「ビジョンに基づく探索型基礎研究」(基礎探索)を行い、お客さまと共に課題を見出しソリューションを構築(顧客協創)すること』をビジョンに掲げています。技術革新、基礎探索、顧客協創の3点です。
 現在、内閣府の総合科学技術・イノベーション会議において、”Society5.0”という言葉が正式に使われるようになりました。Industry4.0に加えて、社会課題をどのように改善するかを含めた一つ上のレイヤーがsociety5.0です。この取組を日立製作所として進めていこうと考えています。
 現在、多くの日本企業はIndustry4.0に振り回されてしまっていると思います。Smart manufacturingは、工場がIoTでつながり、情報が得られることが何につながるのか、明確化されていないことがあります。結果的に社会がよくなるのか,悪くなるのかは使い方次第ということになります。全ての高度なテクノロジーは,そのもの自体が人々の幸福を生むのではなく,適切な使われ方をきちっと社会ルール化することが前提条件です。
 これに対し、一つ上のレイヤーとして、みんなが幸せになるIndustry4.0を実現できる道(Society5.0)があります。たとえば、サプライチェーンにおけるHappiness分析です。一人当たりの出勤時間の多寡、生産量、企業の利益や給与等がデータとしてすべて把握できるようになることで、マクロとして働き方の公平性を実現できます。元請けが多く利益を得るのではなく、適切な対価を支払うことでサプライチェーン内での不公平性がなくなる可能性も大いにあります。このように、社会課題の改善が売り上げ増加につながることを目指しています。

岩澤:非常に面白い概念だと感じました。このような取り組み・考え方が広まれば社会は現状の課題を改善していけると強く感じます。
お話を聞いて、Society5.0はかなり規模が大きく一企業で達成することは難しいと感じたのですが、どのように実現していくのでしょうか。

市川氏:よい質問ですね。ドラッカーの著書にも書かれているように、イノベーションは”Small start”から始まるとされています。今までに全くやったことがないモデルであるため、小さな規模で開始することが大事です。一企業が社会の新たな価値観づくり(Society5.0)の土台を形成するためには、外部資金活用と外部参加を奨励することが手段として挙げられるでしょう。


―パリ協定後の産業界の取り組み―
岩澤:パリ協定により産業界は環境負荷低減の取り組みを強化させるのでしょうか。

市川氏:産業界はもちろん取り組みを強化させていきます。ただし、日本国内は限界費用が高く外国で減らしていくほうが効率的であるため、海外での取り組みが多くなると思います。環境負荷低減の取り組みが不十分である地域のほうが、投資額に対する温室効果ガス排出削減量が大きいためです。このような取り組みを支援するために日本政府はODAを活用した温室効果ガスの削減を目的とした海外支援を行っています。
 海外で日本の技術が活用された事例に関しては、イギリスの鉄道が挙げられます。軽量車体を特徴とするClass 395をはじめ,Class 800というバイモ-ド鉄道が約1兆円規模の事業として導入されます。エネルギー効率が良いこと,パンダグラフがない非電化区間においても電車を動かせることが特徴です。


―再生可能エネルギーと原子力発電―
岩澤:再エネ関連の特許は世界全体で約47000件のうち、日本は約55%保有しています。技術は持っているにもかかわらず、なぜ競争に勝てていないのでしょうか。

市川氏:特許数は多いですが、技術力においてはドイツや中国など他国に比べ互角です。やはり安価に作れることや地理的要因などがあげられるでしょう。

岩澤:再生可能エネルギーはなぜ国内で導入が進みづらいのでしょうか。

市川氏:価格を安くしていくのみしかビジョンを持てていないためだと思います。安く再生可能エネルギーを導入してもらうだけではだめで、再エネ導入が産業活性化にもつながるなど、地域全体をマクロでとらえ価値を提供する形が求められます。その点ではスマートシティのような概念に似ています。たとえば、素材産業が強い地域は、同時に電力消費が大きい。この電力を再エネで賄うことで電力料金低下につながるなど、付加価値の提供が必要です。

岩澤:原発の再稼働が進んだ場合、安定供給が実現しやすいため、スマートグリッドの導入は進まず再生可能エネルギーの導入は鈍化してしまう可能性があるのではないでしょうか。

市川氏:原発と再生可能エネルギーは分けて考えるべきです。なぜなら、原発は仮に再稼働するにしても絶対量は少ないためです。原発を再稼働させることで、火力発電への依存低下につながります。
また、現在仮想発電所 という考え方があります。スマートグリッドとも似た概念ですが、ICTによる管理を通じてベストミックスを図っていくべきだと思います。


―国際標準化の事例―
岩澤:国際標準化の具体事例についてお聞きします。JSA(日本規格協会)の講演資料(2011年7月14日)において、「欧米は仕組みで儲け、日本はモノづくりで儲けてきたが、現在は中国・韓国・インド等が成長し、日本の優位性が失われてきている。日本は今後仕組みづくり・競争の土台作りから参入すべき。方法として①技術は知財にする、②技術が優位になる社会の仕組みを標準化する、ことが挙げられる。」 と書かれています。この具体例である冷蔵庫の消費電力測定について詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか。

市川氏:欧州の冷蔵庫は直接式(壁面を冷やす、霜がつく)であり、日本の冷蔵庫は間接式(冷風を流す、霜がつかない)となっています。消費電力の測定方法について、方式は違いますが、以前は国際標準として欧州方式の規格のみしかありませんでした。試験方法としては、ドアを閉めた状態で消費電力を測るもので、開け閉めは含まれていませんでした。しかし、何回もドアを開け閉めした場合、アジアなどの暑い地域では間接式のほうが、消費電力が少ないことがわかっています。そのため間接式の規格化を2008年末から開始し、アジア市場での販売促進につながることが期待されています。


岩澤:本日は、本当に貴重なお話を聞かせていただき、心から感謝申し上げます。自身の視野が広がり、お話を聞いているだけでわくわくするような気持ちになりました。本日は誠にありがとうございました。



プロフィール
市川芳明氏
1979年東京大学工学部機械工学科卒業。日立製作所入社後、原子力の保全技術及びロボティクス分野の研究に従事。1995年より環境保全分野のソリューションビジネスを立ち上げる。2000年初代の環境ソリューションセンタ長を経て、知的財産権本部国際標準化推進室主管技師長。東京工業大学、お茶の水女子大学、筑波大学の非常勤講師を経験し、現在は東京都市大学非常勤講師。IEC(国際電気標準会議)TC111議長、ISO TC 268/SC1議長、ISO TC207エキスパート、CENELEC(欧州電気標準委員会)オブザーバー、工学博士、技術士(情報工学)。 (参照:日経ビジネスオンライン)

岩澤宏樹(インタビュアー)
青山学院大学国際政治経済学部4年。Climate Youth Japan Advocacyチーム所属。気候変動政策に関する提言書を省庁に提出し、ユースとしての意見を表明している。宗像国際環境100人会議参加(2015年)。One Young World Ambassador (2015年バンコク大会参加)。地球人間環境フォーラムにて2014年にインターンを行い、パームオイルの生産による環境問題と人権問題(熱帯林伐採、劣悪な労働環境等)の文献調査を担当。現在は、エネルギー分野に問題意識を持ち、スマートグリッドなどICTを通じたエネルギー利用の効率化に関心を持つ。


参考資料
 市川芳明「国際標準化の新しい視点とアプローチ」2011、JSA、アクセス日 2016/4/26
http://www.jsa.or.jp/wp-content/uploads/koen110714-text3.pdf
 日本IBM、「仮想発電所(Virtual Power Plant)海外事例とIBMソリューション」アクセス日 2016/4/28
https://www-304.ibm.com/connections/blogs/ProVISION86_90/resource/no86/86_article5.pdf?lang=ja


読むとよい文献
 三宅孝之・島崎崇、『3000億円の事業を生み出す「ビジネスプロデュース」戦略』、2015、PHP研究所